この薬で効果がなければ当病院ではもう……

8月と9月にそれぞれ15~16日間ほど入院して、ドキタキセルという抗癌剤の治療を受けたことは前回ご報告したとおり。その効果を調べるために10月1日にPET検査、4日にCT検査を日帰りで受けました。

 

PET検査は今年に入って初めてでした。このPET検査、がん細胞は糖分をエネルギーとして増殖するため、ブドウ糖に類似した化合物の薬剤(FDGと呼ばれる放射性フッ素薬とブドウ糖を混合した薬剤)を静脈から注射します。

 

そして薬剤を全身に行き渡らせるため暗くした小部屋で50分ほど安静にすると、がん細胞が薬剤を取り込んで放射線(ガンマ線)を放出するので、これを特殊カメラで撮影すると赤く反応するというシステムです。

 

僕の場合、癌細胞が肺から消えてなくなることはなく、小さくなってもレントゲンで撮影すると影が残ります。問題はそれが活動しているかどうかで、このPET検査で調べることでそれがわかるのです。

 

安静にすること1時間弱。読書でもしたいところですが、本を読んでいると目に薬剤が集中してしまい、全身の検査になりません。もちろんスマホもNGなので、横になって時間の経過を待つだけです。

 

その後は放射線に反応する特殊カメラで撮影するのですが、赤く光っていなければ癌細胞は休止中ということになるものの、昨年のPET検査でも上葉の癌が赤く光っている写真を見せてもらいました。

 

この画像による診断は別名「シンチグラム」と呼ばれ、僕が入院した病院には地下1階に「シンチグラム室」がありました。この検査の凄いところは、全身を撮影できるところにあり、幸いなことに今回も右肺以外に転移はしていないことがわかりました。

 

4日後のCT検査は、円筒形のマシンの下を横になったベッドが前後に移動すると、周囲からX線を当てて身体の中の吸収率の違いをコンピューターで処理して、身体の断面を画像にするというものです。これでレントゲン検査ではわからない癌細胞の大きさを確認することができます。

 

こうした検査の結果を10月11日に聞いたところ、下葉の癌は少し肥大しているという診断でした。抗癌剤(ドキタキセル)の効果はなかったということです。そこでドクターから言われたのは、「2~3週間の入院でゲムシタビンを試しましょう。この薬で効果がなければ、当病院ではもう治療法はありません」というシビアなものでした。

 

ゲムシタビンの効果がなければ治療法がないとなると、今後はどうなるのか。素朴な疑問をドクターにぶつけたところ、返ってきた答は「3ヶ月おきに検査をして転移の有無を調べます」ということでした。

 

その後は、その足で入院の手続きとカウンセリングを受けました。直近で転倒やふらつきはないかといった質問は、67歳という年齢を考慮してのことでしょう。そして治療法がないという可能性も知っているのでしょう。病院までの通院時間が1時間ほどなので、自宅近くの病院を紹介できますとか、終末医療の病院も探せますという提案を受けたのですが、さすがに終末医療の病院は「まだ早いので結構です」と答えました。

 

今年3度目の入院は10月21日、翌22日にはいつものように吐き気止めのデカドロンの点滴に続き、初めてとなるゲムシタビンを投与されました。その後の生理食塩水の点滴を含めて時間は1時間30分ほど。あとは副作用が軽微なことを期待するだけです。13日のJ3大宮対福島戦の取材後、しばらくJはお休みということで、週末に取材を申請していたなでしこジャパン対韓国女子代表の試合はキャンセルのメールを出しました。

 

このゲムシタビンですが、最近読んだ経済アナリストの森永卓郎さんの「がん闘病日記」にも投与されたことが書かれていました。森永さんはステージⅣの膵臓癌と診断され、ゲムシタビンとアブラキサン(僕も23年5月の入院でこの抗癌剤とパクリタキセル、カルボプラチンの3種類の治療を受けました)という抗癌剤治療を受けたそうです。

 

しかし効果はなく、自由診療で50万円ほどかけて受けた血液パネル検査の結果、癌の病巣がどこにあるのかわからない「原発不明癌」と診断されたとのことです。そこでドクターからは免疫力を高める「免疫チェックポイント阻害剤」であるオプジーボの治療を勧められたと書いていました。

 

このオプジーボは近年になって開発された治療法で、ノーベル賞を受賞した京都大学の本庶佑特別教授が発見した免疫治療薬です。癌細胞は、もともとは正常な細胞が変異したもので、体内に入り込んだウイルスや細菌などの異物に防御反応を起こす免疫細胞(T細胞)に対し、その攻撃を逃れるためにブレーキをかける信号を送っていることがわかりました。

 

そこでオプジーボで癌細胞からT細胞に送られているブレーキをかける信号を遮断し、T細胞を活性化して、それまで身内の細胞として攻撃しなかった癌細胞を異物として攻撃するようにする薬です。普通はこれに、癌細胞を直接攻撃する抗癌剤と組み合わせて使用します。

 

僕も23年8月の入院で、新たにキイトルーダというオプジーボとパクリタキセル、カルボプラチンの抗癌剤治療を受け、今年の1月からは毎月2回、キイトルーダの治療を受けました。そのおかげで上葉の癌細胞はかなり小さくなり、活動していないことがわかりました(治療は1回50万円! ほどかかりますが、3割負担で15万円。そこで高額療養制度を利用し1回5万円ほどで済みます。地元自治体へ申請すれば受けられます)。

 

しかし残念ながら、下葉の癌にはキイトルーダが効かなかったようで、8月から再入院となった次第です。

 

森永さんは現在も闘病生活を送りながら、執筆活動やラジオに出演するなど勢力的に活動されています。彼だけでなく、乳がんをカミングアウトした女優の梅宮アンナさんら癌の種類は違いますが、癌にもかかわらず前向きに生きている方々は励みになる存在であることは間違いありません。